「はい、解りました」
斗和子が用意してくれた弁当を受け取ると、幸人は坂を下って通りに出、バスを捕まえて街へ向かう。
(早苗・・・)
彼の通う県立東清水高等学校までは大体十一、二分程で着到するが、今朝見た夢の所為もあってか車窓に揺られつつ、青年は思わず幼馴染みの恋人の事を思い返していたのだが、二人は仲の良い幼馴染みであると同時に不器用乍らも本当に互いを大切に思い続けていた、かけがえの無い恋人同士であったのだ。
その身に宿した特別な力を以て予てより国に使え続けて来た彼等は皆、政府より密かに匿われて保護されており、村とは言えどもその戸口は既に五千を越えていて交通、通信、医療、娯楽、教育等の各設備も充実していた為に(とは言ってもそれは集落内の事であり、其処までは一番近い駅からでも三時間の険しい山道を越えねばならず、一般人には絶対に無理。唯一の安全手段は連絡専用の空輸ヘリでそれ以外が近付くと忽ちの内にやられてしまう)文化レベルも一般人のそれと余り変わる事は無かった(因みに同様の隠れ里や秘密の集落はこの日暮村のみならず、全国各地に幾つか存在していた)が、そんな彼等の実家の内、”東雲”は元々剣術や柔術等武道に特に優れた血筋であったが其処へ更に陰陽道や医学、果ては忍の技まで取り入れた全く新しくて強力な武術を完成させており、それを代々の当主を頂点として門人達が、密かに現代まで伝えていた。