そしてある日、彼女がハッキリと”あの予感は正しかった”と思える時がやって来るが、それは父であり一家の頭領である”グランゾ・ド・ロッツォ・カンツォーネ”が風邪を拗らせてしまい、重篤に陥ってしまった事があったのである。
その日は丁度季節の変わり目であると同時に偏西風の影響もあり、周辺地域の天候が不安定な上風も強く、医者を呼ぼうにも簡単には来られない状態だった。
「あんた、頑張っておくれ!!」
グランゾの妻でありリディア達姉妹の母親でもある”コーネリア・ルア・カンツォーネ”が看病しつつも必死に励ますモノのやはり、症状は中々回復しなかった。
(・・・行かなきゃ!!)
だがそれを見たリディアは密かに意を決すると、誰にも見付からない様にスケイル・メイル(鱗の鎖帷子)の編み込まれているフードコートを被って冒険用の身支度を整え、吹き荒れる暴風の中をサーネリア山脈の麓に広がる”マーザソイトの森(通称、迷いの森)”へと分け入って行ったのだが此処の奥にはあらゆる病を完治させると言われる”ケルヤの実”が群生しており、それを取って来ようとしたのだ。
ところがこの森には素晴らしい迄の聖域と不可思議な魔力とを内包している場所が混在していて、特に魔の周辺は強力なモンスター達の寝床となっており、熟練した冒険者以外立ち入りを禁止されていたのであった。
リディアもそれは知っていたため細心の注意を払いつつも何とか目的の植物の種子を手に入れる事が出来たのだが、因りにもよってその帰り道に、討伐難易度Bクラスの魔獣”サーベルファングライオン”、それも三体に出くわしてしまう。
「ああ・・・っ!!」
「リディアッ!!」
其処へ駆け付けたのがカズキであったが彼はこの幼馴染みの少女の事が心配でこっそり気を配っていた為に、直ぐ様抜け出した事に気付いて慌てて追って来たのだが彼女の状況を見て取ると自身の危険も省り見ずにサーベルファングライオンの群の前へと踊り出てその攻撃をかわしつつ、意識と力とを集中して”波動真空呪文”を発動させ、魔獣共を完膚無き迄に始末してしまった。
「うぇ、グスッ。ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「大丈夫だよ、もう・・・」