フラマージュの南寄り、リーヴァス山脈の麓にある商業と学術の中規模都市“アルケイル”。
此処は人知れずに暮らす古代民族の末裔達の街でもあり、その頭領にして地元の名士、カンツォーネ・ハーズィの旅籠兼屋敷にあるプライベート用ガーデンに設けられたテーブルの側で自ら皿を並べつつも数名の従者とメイドを率いて指示を出す、一人の麗しの淑女の姿があった。
「・・・カズキは、夫はもうすぐ来れるんだよね?」
「はいリディア様、若旦那様はあと五分程で此方へお出になられます」
「ウフフフ、ウフフフフフフフッ。あの人ったら・・・」
畏こまって応えたメイドの言葉にリディア、と呼ばれた美しい若人妻はそう呟きつつも、組んだ両手の上に顎を乗せて顔を赤らめ、潤んだ瞳を屋敷の方へと向けた。
(きっと早く私に会いたいのね、もうっ。私と同じなんだからぁ・・・っ!!)
心底嬉しくて堪らない、と言う表情を浮かべつつも、ゴホンッ、と咳払いをすると、改めて最愛の夫との間に産まれた囚人の我が子達の名を呼ぶ。
「ヨシヒコ、ミリア、クロード、カズミ。おやつですよ」