彼は子供の時から何があっても一緒に居てくれただけでなく、泣いていると何時も手を引っ張って先を歩いてくれたし、また凶悪な化け物に襲われそうになった時も真っ先に駆け付けて撃退し、守り通してくれたのだがその時早苗は幼な心に自分の人生に於ける彼の存在の大きさと言うものをハッキリと感じ取ると共に、自分が何故、喧嘩や衝突をする事があっても彼と歩んで来たのかを理解したのである。
そしてそれが愛情であり絆であり、運命である、と悟った時には本当に嬉しくて喜びが止まらなくなってしまうモノの勿論、それのみならず、大切な存在であるからこそ色々と悩み、苦しみもしたのであるが、それでも尚、彼女は青年と一緒に生きる事を選択し、そしてそれはまた、彼も同じだった。
そんな彼以上に自分が幸せになれる相手も居なければ、実りある人生を送る事が出来る存在も居ないと考えていた早苗は、そう言う事もあり賭けてみる事にしたのだ。
「・・・有り難う」
そんな妻に対し、幸人が何処か嬉しそうな、ホッとした様な表情を浮かべるが程無くして普段のそれに戻すと彼女の手を引いて結界の中へと入って行くがしかし、何度も経験していた彼女が今回通されたのは普段使っている其処では無くて、出入り口を頑丈な鋼鉄の扉で仕切られ、全体を分厚い大理石で覆われた部屋であり、中には換気用の通風孔と幾つかの小窓、そして浴室や御手洗い等の水回りへと続くシンプルな作りの木製のドアが備わっている。
またその他には水道や冷蔵庫、ソファーベッドにテレビ等の必需品や娯楽品、更には戸棚やクローゼット等収納も設置されていて中にはティーセットや高級抹茶が収められていたのだが、中でも一番目を惹いたのが浴槽で、リビングに負けない程の間取りがあり、しかも歩くとフワフワする、水捌けの良いゴムの様な煉瓦が使われていた。
だが何よりも早苗が驚いたのは亜熱帯の南国の様な室内の蒸し暑さと濃厚に立ち込める甘い匂いのお香であり、しかもそれを嗅ぐと何やら頭がフラフラとしてしまった。
「ああぅ・・・?」
「此処で暫くの間過ごして貰うけど、その間は裸で過ごして貰う。・・・先ずは服を脱いで」
「う、うん・・・」