「今頃奈美…緊張してるんだろうなぁ…」
綾香は裏庭を散歩しながら溜め息まじりに言った。今奈美は勝先生の所にお礼をしに行っている。その間の時間潰しにと、綾香は裏庭の綺麗な花達に目をやった。
「わぁ…本当に綺麗…」綾香は花の匂いをかいだ。甘い匂いが柔らかい風と共に綾香を優しい気分にさせた。
「あ…」
誰かの声に綾香は振り向いた。
そこにはあの入学式の時に桜の下に立っていた男がいた。
「…あの時の人だ…」
風がふいて綾香の長い髪を揺らす。
一瞬二人の空間だけ時間が止まったような気がした。
「あっあの…こんにちは…」
「あっあぁこんにちは」
男はハッとしたように言った。
「あの…どうしたんですか?」
「いや、花の中にすごく可愛い子がいたものでね。妖精かと思って」
「えっ?」
二人は顔を見あわせる
『あはははっ』
そして二人同時に笑った。
その後沢山話をした。彼の名前は花岡タク、32歳。この高校の用務員だ。
おおらかな性格で笑顔がとても素敵だ。
花が大好きで花の事ならまかせろと、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「じゃそろそろ友達が来るんで…」
「あぁ、気を付けて帰るんだよ?少し暗くなったからね。」
彼の笑顔に綾香の胸が痛む
「あのっ」
「どうした?綾香さん」「また…会えますか?」綾香の心からの願いだった。
「え…?」
「あっあのっまた花の話聞きたいから…!」
「…いいよ、またおいで。僕は大抵ここにいるから」
「はいっ!じゃさよならタクさんっ!」
綾香は後ろも見ず走り出した。いつまでもここに居たいのに逃げ出したい気持ちにかられた。
…また会えるかな?
それが今の私の願い――――――