潮時を悟った私は、やっとのことで事務所を脱出した。
頭の中は、整理の仕様がないほど混乱していた。薄暗い事務所から出て外の空気に触れると、今のは悪い夢だったような気もする。
しかし…汗まみれの白と黒の肌が…目に焼き付いている…
その晩、涼子はいつもの時間に帰って来て、いつものように過ごした。
「お母さん、これ学校から。」
「なあに?」
「参観日の案内だって。この日お仕事?」
二人の子供が交互に話しかけるのを優しく受けている。
「涼子さん、洗剤がもうないわよ」
「あ、買ってありますよ…」
全く…いつものように時間が過ぎて行く…
「今日は無理言って来てもらって…なんか悪かったわね」
「いや…」
「どうだった?」
………何が聞きたい!「どうって…所長に可愛がられてるみたいで…良かったな…」
皮肉に聞こえないように喋るには強い忍耐が必要だった。
「お陰様でね。どう言う訳か。」
訳は知っている…
これ以上話すと、取り乱しそうで収拾がつかなくなるかも知れない。私は言葉少なに床に着いた。眠れない夜………