女の人がその場で泣くのを止め、お兄ちゃんの方へと走り寄っていった。
「……せ…先輩…!!」
甘えた様な声を出しながら先輩先輩とすすり泣く。
その声がくぐもって聞こえるのは、お兄ちゃんへ抱きついているからだろうか。「し……静香ちゃん!?」
いつもの慌てたお兄ちゃんの声も聞こえる。
しかし、その声は私に対してした事が無い、壊れやすい大事な物を扱うような喋り方だった。
「…静香ちゃんどうしたのかい?泣いてちゃ分かんないよ?」
そう言っても女の人は、ただ泣いているだけだ。
お兄ちゃんは困ったようにため息をついた。
私はその間、ずっと自分の家を見ていた。後ろなんて恐くて見ることなんか出来ない。
今、現実に起こっている事を受け入れる事なんて無理だ。
後ろで何かブツブツと話声が聞こえる。
『---―大丈夫僕がついてるから--――』
『--―せ…先輩…!!--―』私は堪らなくなって、家へといちもくさんに駆けていった。
後ろの方でお兄ちゃんが私を呼んだ気がするが、私はそれを無視して玄関のドアをバタンッ!!と閉じる。
私は震える足を堪えながら、頑張って自分の部屋へと入る。ポーチを机に放り投げると、そのまま洋服のままベットへ倒れこんだ。
(あの人は誰なの?……いつも私ぐらいしか女の人なんていなかったのに………ぐす…お……お兄ちゃんの……ばかぁぁああ!!)
さっきの浮かれ気分は何処へ行ったのだろう…。