「十希!!」
ルナは様子のおかしかった十希を追い掛け、書斎に入った十希を、ドアの隙間から窺い見ていた。
ルナはドアの隙間から、十希が静夜の父を刺した場面を見てしまった。
「ルナ様…?」
ルナは慌てて静夜の父に駆け寄る。
ルナが呼びかけるが、心臓を一突きにされた静夜の父はもう息をしていなかった。
ルナの顔が歪む。
「十…希…なんで…」
十希は、息の無い静夜の父を無表情で見下ろす。
「──……それは…静夜の父親ですが…俺の父親でもあります」
「えっ?」
「静夜とは腹違い…と言う事です」
「ッ静夜はそれを…」
「知りません。…でも薄々感付いていたのかも……俺のルナ様に対する気持ちを知ると、自分の気持ちは心底に沈め、あなたに惹かれながらも妹に思うよう懸命だったのだから…兄である俺に遠慮なんかして…」
「静夜が…何…?」
「静夜はあなたを一人の女として愛しています」
「嘘……嘘よ!」
「ルナ様……俺はずっと静夜の妹華夜様を引き止め無かった事を後悔していました。でも…あなたに許され救われた。今度は俺があなたを…」
「だからって…こんな…」
十希は静かに微笑み、ルナは十希の瞳を見てしまった。
「……あなた…死ぬ気?」
「…」
十希はただ哀しげに微笑む。
ルナは無言で微笑む十希を見つめ、十希の揺るぎ無い意思を感じる。
「十希…」
ルナが、血に染まった十希に抱きついた。背に手を回し、しっかりと強く十希に抱きつく。
「ルナ様…」
「──……一緒に…逝ってあげる。一緒に死ぬわ。十希…」
ルナは、微かに震えている十希を強く抱き締め、十希と共に逝く事を口に紡ぐ。
「……」
「あなたと共に…」
「静夜様!火事です!早く逃げて下さい!」
「えっ…」
不測の出来事。
突然出火。
屋敷は、炎に包まれつつあった。
「ルナは?!!」
「十希…?」
「ッ」
十希が、手に持っていたナイフを振り上げた。
ルナは静かに目を閉じる…
「ルナ!ルナ!どこに…ルナァァァァァ──────!!!」
燃え盛る炎はまるでこの屋敷の闇を呑み込むようだった。
月夜
屋敷が燃える炎は闇を照らす光のようにも見えた…