「浅海ちゃん」
助手席に乗せた男が、私の名前を呼ぶ。
「はい。なんでしょう」私は真剣にハンドルを握りながら答えた。今日も休日出勤。13時間も働いてしまった。私は不機嫌だった。
「結婚しないの?」
「どうですかねぇ」私は飽きるほど問い掛けられたその台詞を、いつもと同じように返す。
「けどさぁ。浅海ちゃんは彼氏と長いんでしょ?そろそろどうなの?」
うるさいよ、と内心毒づく。この男…先輩の小林は31歳で、自分だって独身なのだ。びっくりするほど容姿がいいわけではないけれど、お洒落。仕事は緻密で正確。けれどその仕事ぶりに反してというかやっぱりというか、遊びのほうにも手を抜かないようで、こうやっては後輩の私にちょっかいを出してくる。