小さな丘の上。
花咲き誇る丘の上から下を見下ろすと、下も多種多彩の花々が地上を彩っていた。
「──……」
片目に眼帯をつけた静夜がソッと墓標に花を供えた。
丘の上には十字架の石碑があった。
静夜が沈痛な顔で石碑を見下ろす。
「静夜兄様…」
「ルナ!」
声に気付き、静夜が振り返った。
「か…華夜?!」
「ひさしぶりです。静夜兄様」
振り返るとそこには静夜の妹華夜の姿があった。突然現れた静夜の実妹の華夜は悲笑しながら静夜に歩き寄って来た。
静夜は驚き動揺する。
「華夜…なんで…」
「屋敷が家事で父様が亡くなったと訊いて…慌てて参りました」
華夜が墓の前に行くとしゃがみ、花を供え石碑に触れた。
「十希…兄様もここに眠っているのですね?」
「兄…?」
「十希は私達の腹違いの兄弟。静夜兄様の兄だったんです」
「なっ…」
「父様が別の女の方に生ませたのが十希兄様で、私達の兄。……私が結婚する時、十希兄様が言って下さったの〈父の弱味は自分。隠し子がいた事を世間にバラすと脅せば結婚せずにすむ〉と……私が無理矢理結婚させられると思ったみたい」
「十希…がそんな…」
「だから私は言ったの私は望んで結婚するって…」
「……」
「静夜兄様、私…幸せよ。静兄様を今でも愛してる。一生愛し続ける。でも私幸せになれた。子供も生んで優しい夫と優しい人達に囲まれて…私幸せになった」
「──……そう。良かった」
「兄様は…?」
「えっ…」
「静夜兄様は幸せ?兄様の幸せは…何?」
「…」
幸せ…?
十希もルナもいない
幸せはもう
無い…
『ルナァ!ルナァァァァァァ───!!』
燃え盛る炎の中にいた自分を、執事や使用人が強引に屋敷の外に連れだした。
目の前にいたルナが小さくなっていき、やがて視界から消えた。
ルナは炎に包まれている中、最後まで微笑んでいた…
ルナの笑顔が焼き付いて放れない…
「ルナ…十希…なん…で…どう…し…て…」
墓標の前で静夜が押し潰されそうなくらい後悔していた。
華夜はそんな静夜の傍らで、父や十希を想い涙を溢している。
無くしたものはもう…
もどらない…