夜中過ぎ、ふと目が冷めると彼女がいない。
「遠野さん ?」
僕は慌てたが机の上に一枚のメモが残されていることに気がついた。
それにはこんなことが書かれていた。
"井坂君、本当にありがとう。あなたの優しい愛に抱かれて私は本当に幸せでした。至極の時間をありがとう。
そしてごめんなさい。嘘をついていました。
私は男の人と付き合ったことはありません。
本当はこんなこと言うつもりじゃなかった。でもあなたを忘れようと努力した。
…五年前、私はある男にレイプされました…。処女はその時失いました。
そしてその男の子供を妊娠しおろしました。それから知らない男の人と接するのが怖くて、ますますあなたへの思いが強くなってしまって…。
一ヶ月前受けた健康診断で、私は末期癌だと知らされました。もうあと三ヶ月くらいしか生きられません。
もう私に残されているのは、痩せ衰えながら痛みと戦い続け死を待つだけの毎日。
でももう死の恐怖を待ち続けなくていい。
同窓会があってよかった。
あなたに会えてよかった。
死ぬ前に素敵な思い出がほしかった。
好きだったあなたの腕に抱かれて幸せを感じたかった。
私のワガママを聞いてくれて、幸せにさせてくれて本当にありがとう。
幸せを抱いたまま思い残すことなく死ねます。
ありがとう。
さようなら…。
遠野麻里"
僕は驚愕した。
何故一言言ってくれなかった。そしたらもっと違う、もっと…。
…出来なかったかもしれない。だから彼女は言わなかった。
僕は虚しさで一杯になって、そして涙が溢れ出た。
数日後、ある崖から彼女の遺書が見つかったらしい。
けれど彼女は見つからなかったそうだ…。
…本当に幸せだったのだろうか
もっと愛してやりたかった、もっと、もっと…。
「遠野さん…」
彼女の笑顔が忘れられない…。