私は毎朝、田舎のほとんど人の乗り降りがない駅から1時間近くかけて街に出て、更に30分くらい満員電車に乗り換えて高校に通っている。
本当は、高校の近くで一人暮らしでもしたかったが、許してもらえなかった。
移動や乗り継ぎの時間の関係で、毎朝6時の電車に乗る。
勿論、人が少なく、私、椎名夕陽(しいな ゆうひ)は、ゆったり座り、足りない睡眠時間をそこで補っていた。
乗り換えてからの満員電車では寝るなんて不可能に近く、人の波に押され、人の壁で辛うじて立てているくらいだった。
ある日、私がいつものように満員電車に乗っていると、後ろの人の手が、私の腰の辺りに触れてきた。
こんなに混雑しているんだから仕方ないと思い、気にせずにいると、その手がおしりの辺りにきた。
手の甲がおしりにあたっている。
それでも気にしないでいたら、その手は電車の揺れとともに翻され、掌でおしりをゆっくりの揉んできた。
痴漢だ!!
そう思っても、この混雑では対処の仕様がなかった。
スカートの上から触られているだけだし…と気持ちを落ち着かせ、早く降りる駅に着く事だけを祈っていた。
幸い、その痴漢はそれ以上の事はしてこなかった。
それから毎朝、満員電車ではその痴漢が現れ、おしりを触られるようになった。
恥ずかしい気持ちが、いつしか、待ち望むようになり、かと言ってそれ以上はされたくない、などといろんな感情がうまれてきた。
だから、私も少し油断していたのかもしれない。
痴漢にあうようになって3ヶ月ほど経った頃、夕陽は生徒手帳がない事に気付いた。
学校も家も探し、それでもないとなると、電車か…誰かに拾われたか…。
生徒手帳は、駅の落し物コーナーで見付かった。…と言うより、駅から学校に連絡があり、拾ってくれた人が届けてくれたそうだ。