隣の家に大きなトラックが停まっている。長い間空き家状態だったが、誰かが入居する様だ。二階の窓から覗いて見ようとするが、引越しの業者と荷物しか見えない。誰が引っ越してくるかは知らないが、五月蠅くしなければ如何でもいいと思った。
彼の名前は『山田 優』この住宅街の住人である。彼の家の隣は長い間、空き家になっていた。その空き家に誰かが引っ越してくる。隣人が誰であろうと彼には関係なかった。
翌日になり、彼の家の呼び鈴が鳴る。夜間に来客があるのは珍しくもない。彼の両親は近所付き合いが大変良く、彼は近所の住人が鬱陶しいと内心何時も思っていた。その日、来客に来たのは夫婦だった。
「何方ですか?」
彼の母親が玄関で声を掛ける。玄関のドア越しに男の声がした。
「隣の者です。夜分恐れ入ります」
彼の母親が玄関を開けると、若い男女が外にいる。
「お隣さん?」
「夜分遅くに申し訳ありません。隣に引っ越して来た叶と言います。これは詰まらない物ですが、どうぞお受け取りください」
隣に引っ越して来たのは若夫婦の様だ。彼は玄関から聞こえて来る声をリビングで聞いていた。玄関のドアが閉じる音がする…そして、彼の母親はリビングに戻って来て、彼の父親と話し出した。
「寝る」
彼は両親に言うと、二階の自室に戻った。部屋に入って、ベッドに寝転がる…夫婦が引っ越してきたのか。子供がいると五月蠅いから止めて欲しいなぁ。そんな事を考えながら、予備校に行く為の準備をしないといけない事を思い出す。しかし、彼の生活が大きく変化する事を彼自身が知る由も無かった。