生徒の囃子声に、まさか!と笑って否定しながら
先生は内心どきどき。
先生が後藤に見とれたのは今日が初めてではありませんから・・。
他の男子生徒が日毎に男らしく、男くさく育っていくのに。
後藤だけは成長を止めたように、女の子かと見間違うほどの美人のままなのです。
にきびひとつない白い肌。
黒目の大きな二重の瞳。
リップを塗ったような赤みのある唇。
茶色い髪はさらさらのストレートミディアム。
スカートはいたら・・女の子でしょうね。
こんな男子を見ていたらよろしくない妄想のひとつも持つでしょう。
先生はいけない妄想の経験者でした。
罪を感じながらも。
後藤で抜いたことがありました。
そのことをとがめられた気がしていました。
<後藤に変な目でみられたら困るな。>
そう思って後藤を見ましたが、
もう後藤の姿は教室にはありません。
聞いていなかったかな、と安心しながら・
今日もそんなそっけない後藤で抜きそうな自分にがっかりです。
後藤は校門に向ってひとりで歩いていました。
途中、知らない先輩たちが振り返ってみたりしましたが一向に解さない様子。
すたすたと歩いて通り過ぎていきます。
「あれが<後藤 貴也>か。女じゃないのかよ?すげえ可愛いじゃん・・。」
「まじ。初めてみた!なんだよあれ・・。可愛いなあ!!」
「俺・後藤なら抱きたい!」
「男でもかよ!」
煩いものを全部かわして校門にたどり着くと、
ストライプのシャツを着たひとりの男性が立っていました。
「おつかれ。貴ちゃん。」
「・・・その呼びかたやめてくださいって言ったでしょう。」
ちらっと睨んでも、この男性はびくともしません。
にこにこと笑っています。
茶色い髪が外はねのレイヤーで、
少し痛みがちなのか初夏の陽で透けそうです。
小麦色の肌に銀のネックレスがはだけたシャツからのぞきます。
一重のやさしそうな瞳が後藤を包むように見つめています。
「今日はレッスンだから。大学の帰りに迎えにきちゃった。」
にこにこ笑顔でいたずらっぽく話します。
「・・家に楽譜を取りに帰らないと。今日は持って来ていないから・・。」