禁欲生活12日目。
風呂に入った後、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一口飲んだ時、俺の携帯が鳴った。
ディスプレイに表示されていた名前は彬のもの。
こんな夜中にどうしたのだろう、と通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、佑兄?俺だけど』
「ああ、どうした?」
『あのさ…』
「うん」
『さっき、父さんから電話があって』
「…うん」
『今日、帰れないって…』
おじさんから電話があったという時点で、俺は直感で感じ取っていた。
『佑兄…来ない…?』
携帯を切った後、飲みかけのペットボトルを冷蔵庫に放り込んだ。
親は既に寝ている。
多分出て行っても気付かないだろう。
玄関を出て音を立てないようにそっと扉を閉めた。
逸る気持ちを抑えて彬の家の玄関の前に立ち、インターホンに手を伸ばすが、押す前に扉が先に開いた。
「入って」
誘われるまま中に入り、後ろ手に鍵を閉める。
鍵の掛かるカシャンという音がした途端、彬が飛びつく様に俺の首に腕を回してきた。
「佑兄…!」
彬の躰を受け止めるもののその勢いを殺せずに、俺の背中が扉にぶつかる。
彬も風呂上がりなのだろう。
しっとりと髪が濡れて、シャンプーの香りが鼻孔を掠めた。
その髪に顔を埋め、しっかりと抱き締める。
触れたくて触れたくて仕方がなかった存在。
俺にしがみ付く彬の腕の強さから、彬も同じ気持ちだった事が窺える。
「彬…」
名を呼べば少し腕の力を緩めて俺をじっと見詰めてくる。
明りの点いていない暗い玄関でも闇に慣れた目はその輪郭をはっきりと見る事が出来た。
自然と近付く唇。
啄ばむような口付けから深いものへと変わるまで時間は掛からなかった。
「ん…は…っ…」
舌を絡め、互いの唾液を交換し合うように激しく口付ける。
角度を変え、何度も、何度も。
「…彬」
「ぁ…、ゆ…に…」
唇を繋ぐ銀糸が闇の中で鈍く光る。
途中でぷつりと切れた糸が互いの顎を伝った。
「ヤバイね」
そう言いながら彬はそれを手の甲で拭い、ニヤリと笑った。
「何が?」
「俺、そーとー溜まってるかも」
「そんなの俺だって同じさ」
「どっちがスゴイかな?」
「バカか、お前は」
クスクスと笑いながら触れるだけのキスをする。
「来て」
彬に手を引かれ、導かれるまま彬の部屋へと向かった。