深夜に近い所為か、車が走っている台数が少ない。車内から見る外の景色は昼間と違って別の顔をしている。突然携帯電話の着信音が鳴る。
「もしもし……今、車の中よ…えっ…そう、今車で走っているの…何……聞こえない……途切れ途切れなの…」
電話の声の主は義理の弟の拓哉君からだった。私が話している最中、運転している彼が電話を渡して欲しいと催促してくる。
「拓哉か?今、車で走っている最中だ。一箇所、寄る所があるから戸締りをして寝ていろ。遅くなる」
彼はそう言って電話を切ってしまった。彼が何処に寄るかは聞いていなかった。
「寄る所って何処なの?誠志郎さん」
「今から、ホテルに行くよ」
「ホテル?ホテルに用事?」
「そうだよ、ホテルで純子さんとイチャイチャする為にね」
「ホテルじゃなくても…」
「アイツがいると、純子さんとエッチするのに気を付けないといけないからね。それに、壁も薄い所為もあるし」
確かに彼が言った事は間違いなかった。拓哉君がいる時は、私を求めても気を使っているのが判る位。
「実はね、最近出来たホテルに行こうと思っているんだ」
「あるの?」
「最近と言っても、半年以上経っているけど」
「そこに行くの?」
「そうだよ。そこのホームページ見たけどヨカッタからね」
彼は私の手を優しく握り、手を繋いできた。今日の彼は何だか嬉しそうな感じがする…仕事の帰りが遅くて、すれ違いが多かった所為もあるかもしれない。静かに車はバイパスを走っている…バイパス沿いにあるホテルへと車は向かっている。外は晴れているから、星が夜空に瞬いていた。空気が澄んでいないと見えない星…何か、特別な日になりそうな予感がしてならなかった。