サチが加わったその部屋は酷く不思議な空間だった。
「ねェ,あたしタバコ買ってくるうー」
「…え?」
彼女は確か19歳で,煙草も犯罪だ。
「ダメだよサチ?早死にしちゃう」
「早死にとかどうでもいーわ。吸わなきゃ死ぬ」
サチの気迫に負けず,波は淡々と話す。
「死なないって。ね,昼ご飯食べよ」
「しょうがないねェー…波ちゃんの言うことは聞かなきゃダメかな??ねェ,真坂さん」
急に話を振られる。あまり喋らない俺は,この女と上手く話せない。
「ぇ…ああ。そうだな」
そして夜が来る。
「ねェ真坂さん,あたしどこで寝ればいーのォ」
「…えっと…ベッドで波と寝たら?」
波が怪訝そうな顔をした。
「ぇ,あたしは良いけど先生は…?」
「ぁ…俺はソファーで良いから」
他人が家に住むと,当然性行為も疎かになる。
「優しいねェー真坂さん。セックスしたかったら場所交換したげるからァ,遠慮なく言って?」
したいからソファーに行ってくれ,なんて言えない。
「ぁ…うん」
一応返事だけした。
「ぁ,テレビ見てい?ぷっ●ま見たァーい」
「どうぞ」
そう言ってから俺は,洗濯機を回す為に脱衣所へ向かった。ピ,ピ,と操作ボタンを押している途中,背後に気配を感じた。
「…先生?」
波の声。俺は振り向かず,操作しながら喋る。
「ん」
波は後ろから俺の背中にぴったりくっついた。ぎゅ,と抱きついてくる。
「…」
「…どうした?」
操作が終わって洗濯機はガタガタ動き始めた。
「ごめんね。放っとけなくて。勝手に家に呼んで」
サチの事だ。
「…大丈夫,俺は」
手を外し,波の方を向いて言った。
「でも…」
波は珍しく顔を赤らめていた。文の続きを促すように,今度はこちらから抱きしめる。
「…何?」
「あたし…したい」
更に赤面した彼女が可愛くて愛おしくて,もっと強い力を腕に込めた。
「なみ…」
「先生?…苦しいよ」
「ん…」
「ッ……」
彼女の好きな,軽いキスをした。同時に,良い場所が有るのを思い出す。
「…風呂入ろうか?」
--つづく--