コンコンッ
「失礼しまーす」
ガラッ
ドアを開ける。机で書類を書いていた手を止め、中谷先生が顔をあげる。
「なに?」
抑揚のない声。私は崇を見る。崇も、それとなく緊張している。
崇が進み出て、白衣を中谷先生に突き出す。
「私の?ありがとう」
差し出された手に、戸惑う崇。
「あっ、の。。。」
中谷先生は、今、私の存在に気付いたかのように視線をむけてくる。
「男子トイレにあったんです。個室の」
伝えると、先生は白衣に視線を戻した。
「汚れてんの。意味、わかる?」
崇がフォローをくれる。
「そう」
顔色一つ変えずに、先生は崇から白衣を受け取った。水溶液がついただけ、みたいに。
「ありがとう」
もう用がない、とでも言うように背を向けられて、私は拍子抜けしてしまった。崇も呆然としている。
大人の女はちがうわ。
感心してしまう。
キュッキュッ
先生が、実験用の流し台に立ち、蛇口をひねる。一つ、二つ、三つ。。。水道から勢いよく水が飛び出す。バサッ
ステンレスの台に白衣を投げ捨てるようにつっこむ。
「。。。」
先生は、ブラウスの袖もまくらずに、白衣を洗いはじめた。
ゴシゴシ ゴシゴシ
静まりかえった化学室に音が響き渡る。