唯が乗って学校へ向かっていた電車はふいに鈍いブレーキ音を立てて止まった。乗客はざわつき出し、やがて車内アナウンスが流れた。
「この電車は事故発生のためしばらく停車致します。お客様にはご迷惑をおかけ致しております」
またか――と唯は思った。最近は人生を悲観する人が多過ぎる。そんな人が線路へ身を投げては電車のダイヤを狂わせ、通勤や通学途中の人々のその日一日の予定を狂わせるのだ。唯だって今日は学校で用事があるからいつもより早く家を出て、すし詰め満員覚悟で準急にだって乗ったのに。身動きなんか全然取れやしないし、さっきから横のおばさんの口紅が付きそうになるのを全力で躱さなきゃならない。そんな時、唯は急に太腿に手の感触を覚えた。
「…っ!?」
振り返ろうとしたが、動けない上におばさんの口紅が制服に付きそうになる。ようやく横目で後ろを見ると、黒いスーツを来た背の高い若いサラリーマン風の男が目に映った。湿った温かい手が唯の太腿を上へ撫で上げていく。唯は思わずきゅっと足を閉じた。男の手は慣れた手つきで唯の前へ手を回し、太腿から下着へと這わせた。
「ん…っ」思わず声を漏らしそうになったが、車内のざわめきに紛れて聞こえなかった。