連れ込まれた部屋の壁際まで智則に追い詰められ唇を貪られた。
こういう時、普段の冷たい印象からは想像できないような熱さを智則は見せる。
「ん…、は…ぁ」
口腔を探られ、舌を吸われて躰に力が入らなくなってくる。
智則はそれを感じ取ったのか、漸く解放される唇。
あまりやり過ぎるとお互い歯止めが効かなくなるのは分かっていた。
ここは大学であって家ではない。
「…貴志」
「バカヤロ…。昨日、俺はずっと…」
「すまない」
「お前の誕生日だろうが!」
そう言った途端、智則の目がきょとんと大きく見開かれた。
「お前…それすらも忘れてやがったな…」
「…そうか。そう言えば俺、誕生日だったな」
「なんでそう自分の事には無頓着なんだよ」
昨日は祝ってやろうと料理を作って待っていたのにいくら待っても来やしない。
携帯に電話しても電源を切ってるし。
部屋に行ってみても電気は点いてないし。
「昨日何してたんだよ?」
「一昨日教授に付き合わされてほぼ貫徹だったから部屋で死んだ様に寝てた」
この男、本気で死なせてやろうか。
馬鹿げた理由にくらりと目眩がした。
人が一生懸命慣れないデザートまで作って待っていたのに。
「もういい」
智則の腕の中からすり抜けて出口へと向かおうとした所で再び腕を掴まれる。
「待てよ」
「離せ。講義が始まる」
「もうとっくに始まってるさ」
「俺はお前ほど優秀じゃないんだよ」
ぐいと腕を引かれて元の壁に押し付けられた。
両脇に手を付かれその腕に閉じ込められる。
「プレゼントは?」
「ンなもんねぇよ」
「なんで?」
「時効だ時効」
俺はじっと見詰めてくる智則の瞳から目を逸らした。
眼鏡の奥の瞳が酷く妖しく煌いていたから。
「じゃあ勝手に欲しいモノを貰うまでだ」
そう言ったと思ったら智則は俺の首筋に顔を埋めてきた。
「な…っ!?ちょっ、智!」
「何?」
「何、じゃねぇよ!ココは…」
「関係無い」
眼鏡を外し、手近にあった机の上にそれを置いた。
レンズ越しではない強い視線に捕われて動けなくなる。
シャツを捲り上げられて素肌に直接触れる掌にビクリと躰が震えた。
「や…嫌だ!智!やめろ!」
「あまり大声出すと人が来るぞ」
「だからヤだって!ちゃんとプレゼントやるから止めろ!ココは嫌だ!」
「その五月蝿い口を塞いでやろうか?」
「智…っ!」