避難の声を無視してもう一度その唇を塞いだ。
閉じられた唇をこじ開け、その隙間から舌を滑り込ませ、逃げる舌を絡め取る。
俺の胸を叩いて抵抗を示す貴志の腕を捕まえて、壁に纏い付けた。
少々乱暴になってしまった為に貴志の表情に苦痛が浮かぶ。
「んっ…ふ…、ゃ…やめ…智…!」
互いの唾液が混ざり合い、飲み下しきれずに貴志の顎を伝い落ちた。
目を開けると示し合わせたかのように貴志も薄っすらと目を開け、涙で潤んだ瞳と視線が絡まる。
(そろそろ限界か…?)
ちゅ、と態と音を立てて舌先を吸い上げ、唇を離す。
その途端貴志の膝がカクンと折れ、壁伝いにズルズルと座り込んでしまった。
その場に跪き、肩を上下に揺らして荒い息を吐く貴志と視線を合わせる。
涙で瞳を潤ませながらもこちらを睨んでくる気丈な姿に微笑で返した。
「いいかげんに、しろよ…っ、智」
「だからイイ加減にシテやろうって言ってるんじゃないか」
「そういう意味じゃねぇよ、馬鹿野郎。これ以上やったら、」
「やったら?」
「殴る」
簡単に手を拘束されて、キスだけで腰砕けになっている奴が何を言っているのだろうか。
「えらく威勢がいいな。やれるもんならやってみろよ」
「本気だぞ」
「それは楽しみだ。じゃあその元気、夜まで残しとけ。今日の夜、行くから」
そう言って立ち上がり、踵を返す。
端からこんな場所で犯るつもりなど無かった。
「な…っ!?来なくていい!来んな!」
「…プレゼント」
そこで言葉を切り、その場に座り込んだままの貴志を振り返る。
「くれるんだろう?」
「あ…」
「さっき言ったよな?『プレゼントやるからココでは止めろ』って。
止めてやったんだから約束は守って貰わないと」
自分の中で最高と思える笑顔を向けると貴志は僅かに顔を紅くして、口をパクパクさせていた。
返す言葉が出てこないのだろう。
俺に勝とうなんて100年早いんだよ。
「講義出ないのか?」
「…もういい」
「ふーん…ま、いいけど。じゃ、夜楽しみにしてるから」
部屋を出た俺はそのまま講義をフケようかとも思ったが、貴志との事を周りが不信に思わないように一人講堂へと戻った。
周りの奴らが一人で戻ってきた俺にコソコソと問掛けてきた。
「西本は?」
「さぁ…」
「あれからどうなったんだ?」
「とりあえず、和解?」
かなり強制的に、だけど。