忘れもしない、あれは…
明後日は体育祭、という日のことだった。
中3はこの時期どのクラスも、みんな居残って応援グッズを製作するのが普通だ。もちろん俺も、塾をサボって横断幕にスローガンを書くのを手伝っていた。若い美人の先生が寿退社し、それに次の担当は煮ても焼いても食えない中年のばばあ、哀しいやら何やらで行く気がしなくなっていたのだ。
放課後、午後5時。
教室が汚れるから、墨を使うのなら書道室で作業しろと先生に小言を頂戴したので、俺は先に一人で行ってみんなが来るのを待っていた。
(ヒマだなぁ…先に構図書いちゃおっかな…)
畳にごろりと横になったその時。
「ちょっ、やだ!やめてよっ!!」
(何!?女の声!?)
昼ドラ的な会話が聞こえてきて、そのジャンルが大好きな俺はガバッと上半身を起こした。
自慢にならないけど、「○のロンド」ならかなり詳しい。
最近は専ら、一足遅れた韓流ブームなのだけれど。
「離してってば!!いやっ!!」
そろそろと声がする方へ移動する。
もしかしなくても、修羅場な場面をこの目で見れるかもしれない…!!
期待に胸(正確には鼻の穴)を膨らませ、壁に耳をつけた。