「じゃ、じゃあ、お前のは俺が注いでやるよ」
貴志が俺の手からボトルを奪い、むくれながらグラスに注いだ。
まったく素直じゃない。
そんな仕草に思わず笑いが込み上げてくる。
「何だよ」
「別に?ホラ、グラス持てよ。乾杯するぞ」
「ん…」
「お前な、何か言う事は無いのか?」
「………おめでと」
消え入りそうな声で祝いの言葉を貴志が呟いた。
昨日忘れずにここに来ていたらどんな風に祝ってくれたのだろうか。
それでもこんな祝われ方もまた一興と思えてしまうのは末期だろう。
「サンキュー」
チン、と乾いた音を立ててグラスとグラスがぶつかり合う。
小さな気泡が生まれる黄金色を一口含めば甘い香りが口腔を満たした。
「あ、美味しい」
「当たり前だろ?旨いの選んできたんだから」
「そりゃどーも」
グラスを置いて料理に手をつける。
さすがに誕生日とあっていつもよりも豪勢だ。
貴志は全て昨日の残り物だと言ったが、俺もそこまで鈍くない。
確かに昨日の残り物もあるようだがそうでない物もある。
「旨いなコレ」
「当たり前だろ。俺が作ったんだから」
「大した自信だな」
「うるさい。黙って俺に感謝しながら食え」
俺も大概捻くれているとは思うが、コイツも負けず劣らず捻くれている。
「感謝してるに決まってるだろ?」
「どうだか」
「疑い深い奴だな」
箸を置いて真っ直ぐに貴志を見詰める。
視線に気付いた貴志が気まずそうに視線を逸らした。
「貴志」
「なんだよ」
依然貴志はそっぽを向いたままで。
俺はテーブルに上体を乗り出し、そのシャツの襟元を掴んで、ぐいと引き寄せ唇を奪った。
突然の事に貴志は目を大きく見開き、硬直していた。
唇に軽く触れ、至近距離で見詰め合う。
「本当に感謝してる。ありがとう」
相手の吐息を感じる距離で囁き、角度を変えてもう一度触れるだけのキスをして離れた。
硬直したままの貴志の顔が目に見えて紅く染まってゆく。
その様が可笑しくて、俺は必死で笑いを堪えていたのだが抑えきれずに吹き出してしまった。
「ふ…不意打ちはやめろ!」
「いつもそんなようなものじゃないか?」
「……馬鹿」
顔を真っ赤にしながら照れ隠しに料理をパクパクと忙しなく口に運ぶ貴志。
捻くれてはいるが、扱いは至極単純だ。
「誕生日なんだからもっと楽しくしようぜ?」