自分の誕生日も忘れていたくせに、どの口がそんな事を言うのか。
そう。さっき自分の唇を掠めていったその口。その唇。
妙に意識してしまって、また顔が熱くなる。
アルコールが回っているのかなかなか顔の熱が引いてくれない。
智則はそんな俺を見てクスクス笑いながら涼しい顔で食事を再開していた。
俺だって楽しく誕生日を祝ってやりたかったんだ。
最初にそれをぶち壊したのはお前じゃないか。
むしゃくしゃした俺はグラスに入ったシャンパンを、ぐいと一気に呷った。
空になったグラスに新たに注ごうとしたら、伸びてきた智則の手に阻止される。
「強くない癖にあまり飲みすぎるな」
不覚にも触れた手にビクリと震えてしまった。
意識するなと思えば思うほど意識してしまう。
そんな俺に智則が気付かないはずもなく、ニヤリと意地悪く微笑まれる。
「どうした?」
「な、何でもねぇよ」
「顔が赤いぞ?」
「酒のせいだ」
いいから早くその手を離して欲しい。
片手は俺の腕を掴んだままで、そっとボトルを奪われる。
徐に立ち上がった智則は意外に力強いその腕で俺を立たせて引き寄せた。
「な、に…?」
「特別に最後の一口だ。よぉく味わえ」
そう言うとボトルに口を付けてそのまま呷った智則に、今日何度目になるのかも覚えていないキスをされた。
唇をこじ開けられてその隙間から流し込まれる液体。
甘さを増して感じるのは気のせいだろうか。
その甘さと香りに頭の奥が痺れそうだ。
ゴクリと嚥下したのを合図に智則は唇を解放し、顎を伝ったものを舐め取ってゆく。
「おっ、お前絶対酔ってるだろ!?」
「別に普通だ」
「普通にこんな事やる奴がいるか!」
「普通じゃなきゃいいのか?」
腰に腕を回して引き寄せられ、躰が密着する。
首筋に顔を埋めた智則の吐息がいつもより熱く感じるけれど、自分の方が更に上を行って熱いのは、やはり自分の方が余計に酔っているのだろう。
智則の体温が心地良いだなんて完璧に酔っている。
首筋に触れた濡れた感触にゾクリとして身を捩った。
酔っていても僅かに残った理性が邪魔をして行為を進めようとする智則に怯んでしまう。
「や…、智…っ」
「ダメ?」
触れる指先に昼間の熱を躰が思い出す。
「イヤ?」
「イヤ…」
そんな熱の籠った眸で見詰められて拒める筈がなかった。
点った熱が暴れだす。
「…じゃない」