でも、茜はそれで満足しているようだ。
『あたしは純愛道を行くの』
彼女がそう宣言しているのを聞いた。
高校のとき、体目当ての男に引っかかったのがこたえたとか何とか。
『男なんて、九割はただのエロなんだよ』
茜のそのときの言葉を思い出す。
『残りはみんな不感症』
そんなはずはない。
だって…だって、あいつは…
「ミナ!!ノート移さして!!」
茜が手元を覗き込んでくる。
昔、遠い昔に、私の髪をくしゃっと撫でて呟いた彼の言葉。
手のひらの感触までもが鮮やかに蘇る。
『俺、お前が笑ってる時が一番幸せ』
『Hしてる時より??』
『うん、何してる時よりも』
全ての講義が終わり、また二時間半以上かけて、小さなマンションに戻る。
ドアを開けると、香ばしい匂いが私を包んだ。
「おかえりー!!」
エプロン姿でヒロが現れる。
「ただいまー、夕飯助かります!!」
「ミナちゃんのためなら何でもしますよー」
ヒロは我が家に居候している十九歳の男の子で、料理関連の専門学校に通っている。
恋人ではない、はずなのだけれど…。