序章…天使の歌声
オレは切り立った崖の上に建つ教会に来ていた。
崖の下に広がる海からの風が心地よい。
ふと気付くと、どこからか歌が聞こえる。
ひどく優しく美しい、そして悲しい恋の歌。
それは教会の裏手からだった。
シスターが一人、遠い海に歌を奏でていたのだ。
"どんな時も 忘れなかった
あなたの声も 瞳も
すべてが好き
あれからの5年間
忘れられなくて…"
その人の瞳がオレを捕らえた。
…歌がとまった。
瞳が潤み、ひとすじの雫が頬をこぼれた。
途端に踵を返し、その人は駆け出す。
「っ莉架ぁ!!」
たまらずに叫んだ声は、うまく発せられていたのだろうか。
刹那、莉架は振り向き、またなおもオレから遠ざかろうと駆ける。
風には、甘い滴が溶けていた―――。