あたしは毎週、土曜は尚の家に通ってた。尚のお母さんにピアノを教えてるんだ、あたし。
あたしは、尚とは毎日のように学校で会ながらも、まだ、尚の時間が欲しかった。
「あ、母さん?どうした?」
家につくまえに、尚の携帯が鳴った。
「え?まじで?大丈夫かよ?うん…わかった、伝えとくけど…うん、あぁ」
「おばさん?」
電話を切った尚は、ちょっといいにくそうにあたしを見ずにいった。
「母さんの妹、おばさんが骨折したらしくて、千葉までいくから明日帰るって。りかにごめんって。」
「えっ…大丈夫なのかなぁ?」
「まぁ、大丈夫だっていってたけど…悪いな、せっかくの土曜なのに」
尚はタバコを消すと、
「送るよ」
といった。あたしは、すぐに、「や、いや!」
素直すぎるほど、言葉がでた。
尚は、少し驚いている。
「どうしたの、お前。最近、なんか変だよ?」
「尚との…」
「え?」
「尚との時間、少なくなるの、いやなのっ…」
外は雨が降り出した。
尚はワイパーをつけると、タバコにまた、火をつけた。
「ごめん、あたし、変だよね、やっぱり…」
「りか、俺は…」
「わかってる!あたしたち、もう七年も友達で、今までも今も、これからも、友達のままがいいって、わかってる!でも…」
尚は、あたしが最後まで言うのを待たずに、あたしを抱き締めた。
(え…)
しばらく、そのままで、いた。雨が強く降り始めて、ワイパーの音だけが聞こえてた。
「お前のこと、友達なんて思ったこと一度もなかったよ、今まで…」
尚の、低くて甘い声があたしの耳元に響く。
「でも…」
「でも?」
「お前のこと、ずっと好きだった。でも、俺はびびってたんだ。りかが、もし、俺のことを友達以上に思えないって言ったら、今までもこれからも、もう、お前との関係が壊れてしまうんじゃないかって…」
尚…
「尚、あたしもずっと同じ気持ちだったの…」
「ごめんな、七年もお互い同じ気持ちでいたのに、待たせて…」
あたしたちは、初めてキスした…