家に帰ると相変わらず玄関には男の靴。今日はわりと歳いってるのか、サラリーマンが履きそうな靴だ。
母の部屋からガタガタと規則正しい音が聞こえる。
「あぁん…ダメよ…そんなふうに…あぁっ…。」
「ここ…?ここどう…?」
「あぁっ!そこっ…!」
二人の卑隈な声が聞こえる。私はわざと荷物を置く音を大きくたてた。
二人は一瞬シンとしたかと思うとクスクスと笑いだした。そして母が口を開く。
「娘が帰って来ちゃった。」
「いくつなの?娘は。」
「20歳。根暗なの。」
「聞かせてやれば?」
「はぁん…っ…ちょっとぉ…あっ…あぁん…っ。」
「凄いな…ここ…ぐちゃぐちゃだよ?」
「あぁぁっ…あ……ッ」
愚かな男と女。私は家を後にした。思えばこうして家で自分の時間を得たことがあっただろうか。
公園で一人夜空を見れば今日は曇り。本当に私は一人なんだと思った。
私は歩いた。今夜はファミレスで休もうと歩いた。
あと少したてば出られる。出たら自由。そう言い聞かせながら。