「あのさ。」
朝食を食べながら秀太郎が口を開いた。
「季吹が嫌じゃなければ、ここに住んだら?」
私は一瞬、自分の耳を疑った。だがすぐに我に返り、
「一緒に住むなんてできないよ!」
そう答えると秀太郎は真面目な顔をしながら続けた。
「昨日の様子だと、季吹が安心して生活できる環境じゃなさそうだし、お前の学校ってカリキュラムきついだろ?勉強だって大変なのに。」
秀太郎の言うことは当たっている。中学時代から私は常に母の事情でまともな試験勉強はできなかった。
「今すぐに返事をしろとは言わないよ。ちょっと考えてみない?」
「わかった…。」
私はとりあえず返事をした。秀太郎と一緒に住む。男と一緒に住む。私の頭には全くない事だ。
「それに見てよ。この部屋。ひどいだろ?季吹は家事が得意そうだし。飯もうまいしさ。」
秀太郎はニヤケ顔で話した。今まで見てきた男のニヤケ顔はいやらしく感じたけど、秀太郎には可愛いさを感じた。
「ありがとう。考えてみる。」
「うん。」
秀太郎のこの時の顔を私は今でも忘れられない。
あの優しさに溢れた笑顔を。