この中年オヤジを油断させるためにはこの快楽の波に流されているフリをしなければならない。
とゆうか実際問題、身体への愛撫を許しながら理性を保たなければならないのは至難だった。
太郎は両の乳房の先を口でさんざん弄ぶと、今度はその麓に沿って舌をはわせ始めた。
膨らみの下から谷間、そして上のなだらかな傾斜へ。
そこから鎖骨へ登ってくる。
綺麗に浮き出た鎖骨の輪郭をなぞると舌は首筋に進路を変えた。
「はぁぁ・・・ぁああ」
芝居なんてうたなくても勝手に口から声が漏れた。
全身がすべて性感帯になったみたいに感度があがっている。
身体が理性を切り離したがっている。
吐息が、声が、うねる身体が、刺激をねだるかのように太郎を挑発している。
愛子の理性をつなぎとめているのはわずかな希望と太郎の脂ぎった醜悪な容姿、そして口臭だった。
乳首から胸元のあたりが唾液でベトベトになっていて、そこから何か腐ったような臭いが臭ってくる。
そんな嫌悪感も総動員していなければとっくに雌の本能を解放していただろう。
太郎の舌が耳まできた。
耳の穴に舌先を刺しこまれる。
更に舌を引っ込めて耳たぶを咬んできた。
「んっ!、ぅくぅ・・ひゃあ!」
あられもない悲鳴をあげて愛子の背筋が反る。
顔の正面に太郎の顔が来た。
鼻と鼻が付くか付かないかの距離、見開いた太郎の目と視線が重なる。
既に表情がうつろになっていた愛子はただ肩で息をしながら、野蛮な色を宿した太郎の瞳を見つめていた。
たぶん・・・キスされるんだろう。
しかも絡み合うような・・・。
これだけ顔が近いとすさまじい口臭だった。
できれば、いや絶対にディープキスなんてしたくない。
だが太郎は手の拘束を解いていないのだ。
愛子の力が抜けているぶん太郎もさほど強くは掴んでいなかったが、それでも今から暴れて離れられるとは到底思えなかった。
この野獣に犯されないためにも、そして勝って家に帰るためにも、私は・・・。
太郎の顔がゆっくり近づいてくる。
会場からは口笛を吹いたりして煽る声があちこちから聞こえた。
実況も盛り上げようとしているのがかすかに聞こえる。
愛子は視線を反らさずに首を傾げてキスを受け入れる体勢をとった。
太郎がわずかに口を開く。
愛子もそれに習う。
そして唇が重なった。
続く