席替えがさらに状況を悪くした。桐也は理子の隣に来てしまったのだった。あの“目”がさらに近づいた。
「よろしく」
「あ、伊那谷です」
「知ってる、理子って名前だろ?」
「・・・うん」
突き放すような言い方。
自分を見つめていたのは気のせいなのだろうか?
席が替わり最初の授業。
それは始まった。
彼がこちらを見つめ始めたのだ。あきらかに自分を。
理子は即座に言った。
「どうしたの?」
「君を見てるだけ」
なんのごまかしもなかったので理子は焦ったが、冷静に切り返せた。
「じ、授業に、集中できないんだけど」
「ごめん、ウザかったよね」
桐也はすぐに顔を伏せたが理子はつい口を滑らせてしまった。
「ううん、ウザくないよ!」
まるで予測していたかのような答えが返ってきた。
「じゃあもうちょっと見てて良い?」
ホストが客を口説いているようだった。
恥ずかしさと体温の上昇によってのぼせ上がり理子は何も考えられなくなっていた。
こうして毎日、毎時間、真隣で理子は桐也の鑑賞物となった。