真衣はみんなが帰り始めた騒ぎに乗じて、体育館に日向野を呼びつけた。
「有沢。どうした?」
「あの・・・えと、あ!あの」
言葉がうまく出てこないが、真衣はこの騒ぎの中で日向野に告白して付き合おうという考えだった。
体育館のはるか向こうで生徒たちが早帰りを喜んでいる。
「有沢?」
日向野は何事かと真衣の顔をのぞき込んだ。
少し涙ぐんでいる。
「ひ、日向野、日向野くんは」
真衣は意を決して言った。
「私のこと、どう思ってる?」
「え?どうって、マネージャーだろ?」
真衣は少しショックを受けたがかまわず問いつめた。
「それだけ?」
「は?」
「私って、他にはどんなイメージがある?」
日向野は少し顔を赤くした。
真衣は手応えを感じ、小さく手を握って、よし!と呟いた。
「いや・・・俺だけじゃないんだけど、部員全員が・・・・ド・・・」
「ド?」
「ドMっぽいって」
漏れる笑いを堪えながら日向野は言った。
「ひどい」
「有沢、ごめん」
真面目な顔で日向野は謝った。しかし、真衣は自分の性格も性癖も知っていた。
本当に真衣は相当なマゾヒストだった。
「いいよ・・・・・・私、それでも」
「え・・・有沢」
「それでも私!日向野くんが・・・」
「有沢、そう、だったのか?」
この『そう』が真衣にとっては好きという気持ちが伝わった瞬間だった。
しかし、日向野には単に真衣がドMだと告白したところまでしか聞こえていなかった。
「私、日向野くんに認めてほしい!!今まで言えなかったけど」
「有沢・・・俺、どうすりゃいいんだよ」
「いいの、日向野くんが認めてくれるようなことなら。私、何でもする!!」
これはマネージャーや女性としての意味だった。