「…―柚木さんは、どうして陸部に行かないんですか?」
…………。
「トレーニング、まだしてるんですよね?」
すると、柚木は軽く首を振って吐き捨てるように言い放った。
「まさか…何で俺が…」「わかりますよ…。柚木さんの体、筋肉…。スポーツやめた人の体じゃないし…」
熱い肌。その下に感じられた若い筋肉は無駄のない見事な張りを持ち、細身ながらよく鍛えられた、織部のそれに負けない程の輝くような少年の肉体であった。
(それなのに何故…?)何故この人はこんなにも己を痛ぶり、辱め、汚すような事をするのか…。
「また、部活に行きますよね?」
「…」
「中須に…、同じ陸部の一年なんですけど、柚木さんが一年頃凄かったって聞いたから…。やっぱそういうのって気になるっていうか…」
(……ああ、)
少し照れながら熱く語る織部を見ながら柚木は思う。
(似てる…)
走ることしか頭になくて…、いつも真っ直ぐで…
柚木は既に失われた幻を織部の中に見ていた。それは随分昔に消えてしまったもので、決して取り戻す事はできないものだったが…
「いいよ」
「…ぇ?」
「織部が言うなら行くよ」
「……」
ゴクリ、と喉がなる。