電車の中で考えて居た。あの陽介の手を握りしめてどうしようとしていたのか。電話が鳴らなかったらあのまま…。あのまま…?ダメだよ。そんな。何を考えているの…。村上くんはちゃんと帰れたのだろう。
次の日生徒は休みだったが私は出勤することにした。何かに逃げていたわけじゃなく仕事が残って居たから。…あの教員室の堅いソファーを見ると昨日のことを思い出すことがわかっていたから見ないようにして働いた。昨日…陽介と私は何をしていたのだろう。
夕方になる頃帰ろうとして学校を出ると村上くんが立っていた。「村上くん…」「紫織さん…ちょっといい?」ずっと待っていたのだろうか。「本当に学校に居た。…てか、そんなに働いてたら彼氏逃げちゃうんじゃない?」「…何急に。彼氏はいないんだよー。」なんだか拍子抜けした。いつもと同じで普通でホッとした。
わざと学校のカフェに行った。誰かに見られても怪しまれることはない。…こうやってみる陽介はやっぱり20歳の男の子だなぁとぼんやり見て居た。帽子もスニーカーも少年みたいだ。…昨日の夜の陽介は…少し大人に見えた。