「有沢、本当に良かったのか?俺は逮捕されなくて…」
心身ともに定期的に検査が必要ということで真衣は月に何回か日向野を連れ病院に通っていた。
病院前の庭には季節らしくクリスマスツリーとイルミネーションが飾ってあった。
もう陽が落ちかけていた帰り道で日向野が切り出した。
「日向野くんがいなけりゃ私たち自由になれなかった。結局通帳の中の額くらいお金が無かったら私たちは言いなりのままだったんだもん。感謝しきれないよ」
「…ん。やっぱり似合うね。そのワンピース。俺が選んだだけあるな」
「なにそれ、自己満足?はは!おっかしい!」
「頑張ってバレーの推薦で行ける大学の学費貯めてたけどこんな風に役にたつなんてな」
「あの額見ちゃったら山内だって私だって驚くなぁ。…ありがとう、このワンピ」
日向野は苦笑した。
「あ、あのお金は実は元金は両親の貯金なんだ。あの場合は俺が貯めた、みたいに言わなきゃ山内にバレちゃってただろ?」
「えー、ウソなの?」
「三分の一くらいは自分で貯めたかな」
この事実は余計だったと日向野は心中後悔したが、繋いでいる手を離さない様子から真衣に幻滅されたわけではないようだ。
「あ、理沙と里奈ちゃんの家にもお父さんとお母さんが住むようになってくれたんだってさ」
「やっぱり親は偉大だな」
「んー、でも。あの時私が一番望んでたのはお父さんでもお母さんでも無かったなぁ」
「へぇ、誰だよ?」
「知ってるくせに」
二人が口づけをしたその時刻にちょうどクリスマスツリーとイルミネーションが点灯した。
「…綺麗」
「あの貯金で買ってやろうか?」
日向野がからかうと真衣は「買って」と腕に抱きついた。
「冗談だって」
真衣はわざと驚いて見せた。
「知ってるくせに」
真衣の笑顔に、初雪が舞い落ちてきた。
二人はまた、口づけを交わした。
「ご主人様。大好き」