これが理想郷だと教えられた。
卑しいことは一つもないと覚えた。
少女はいいこだったので、かの憎き魔王様のご命令にも従っていた。
「おじさま、私のエデンはいづこですか。」
少女は蚊の鳴くような声で呟いた。
おじさまと呼ばれた魔王は嘲笑う。
「お前のエデンは此処だよ。」
彼女は娼婦だった。蝶のように舞い、蜂のように死んでゆく運命にある。
彼女の、それ以外の道程は残されていなかった。
しかし少女は神に物を乞いたりはしない。
魔王様に一生仰せ仕えることが、自分の与えられた使命だと思っていたから。
ーー魔王様、私は貴方に乞いたりはしません。
私の首を締め、私を殺してください。
ーー私は売春婦。貴方を愛しています。