学校の屋上で煙草をふかす。
それが俺の最幸な一時。
『禁煙』
「みーっけ!」
屋上の扉が開く音と共に明るい声が鼓膜を刺激する。
「あー、またタバコ吸ってる。ダメだって言ってんだろぉ?」
眉間に皺を寄せながらぶつぶつ文句を言ってくるコイツは同じクラスの神野。
「うるせぇな、おめーに関係ねぇだろって」
いつもと同じやりとり。よくコイツも飽きずに毎回同じこと言ってくるよな。まあ、毎回同じ返事をする俺も俺だけど。
「未成年はぁータバコを吸ってはいけないと法律で決められてますぅー」
「知らねぇな、そんな法律」
「この世間知らずがっ!」
俺は別に不良ってわけじゃない。毎日ちゃんと学校きて、授業出て、成績もそこそこで、問題を起こしたこともない。そんな優等生でも不良でもない、どこにでもいる地味な高校2年生だ。
「桐島は地味じゃないよ。全然目立ってんじゃん」
俺の横に座った神野がパンの袋を開けながら言った。
「確かに口数少ないし、クラスの中心にいるわけでもないけど、存在感あるよ。モテるしさ」
「モテる?俺モテてんの?女子に話しかけられたことないのに?」
「それはだって桐島いっつも怖い顔して近寄るなオーラ出してるからさ。そこがまた良いらしんだけどね」
そう言う神野も女子に人気があることを俺は知ってる。高校男子にしては幼い顔立ちと人懐こい性格、加えて低い身長が母性本能をくすぐるらしい。コイツが俺に懐いて四六時中付きまとってくるもんだから、漫研の腐女子共が俺らを題材に漫画を描いていることも耳にしたことがある。一応言っとくが、俺にそんな趣味はない。