叶わないとわかっても想わずにはいられない。届かぬとわかっていても手を伸ばさずにはいられない。そうそれが禁断の果実だとしても。
ーーーーーーーーーーーーーー時は大正、日本が大国へと変化を遂げようと躍起になっているというのに、ここだけはほかと違っていた。ゆったりと流れる小川、美しく咲いた桜の花、聞いているだけで心が表れるような山鳥のさえずり、桃源郷と言うに等しいそこは帝都・東京の郊外にたたずむ神条侯爵の屋敷内にある庭園、そこで彼はいつもの様に木々の世話をしていた、彼の名は松元林太郎(まつもとりんたろう)祖父の代からこの屋敷に出入りしている神条家御代抱えの庭師である、先月男手1つで育ててくれた父が急死したため、18歳である林太郎がこの庭園の管理をしている。午前中の分が終わり一段落着いたのでそろそろお昼にしようと思い用具小屋に戻って一息着いていると後ろから人の気配がした。