涼がズボンのチャックに手をかけた時、テーブルの上の涼香の携帯が鳴った。
思わず涼香は驚き顔になる。
涼はそんなところも可愛いと、涼香をひと撫でして、携帯に出るように言った。
「いいよ。どうせお母さんが帰る時間伝えなさいって電話だよ。涼の家、近いから大丈…」
不意に涼香の携帯着信が切れ、涼の家の電話が鳴り出した。
「…なんだよ……俺らの…」
留守番電話に切り替わった。
「秋野さんのお宅でしょうか…針谷です……。そろそろ、ご主人がご出張先からお戻りになられる頃かと思いましてお電話させていただきました…」
二人は固まった。
留守電の声は涼香の母親だ。
言い方からして涼の両親に用があるようだ。
「例の件についてお話したいのです。ご主人がお戻りでしたらご連絡下さい、お願いいたします」
「…………………」
「スズ……俺、何の話しか全然…」
「………涼!あたし………………」
「え?」
「私、帰るね!」
涼香は止める間もなく着替え去って行った。
しかし、明らかに涼香は泣いているようだった。
「スズ……?何なんだよ…何なんだよ!!」