人は本能的に自分の死期を悟るのかもしれない…。
自分の名前すら分からない認知症のお年寄りが、その日の昼間、タンスの中をゴソゴソと荷造りを始めたとのこと。その晩、あっけなく畳の上に倒れてそのまま亡くなった…と医師である兄貴に聞いたことがあったから。
快晴の神戸市内。12年前の震災が起きたことが信じれないぐらい美しい風景が視界に広がる。
あの日、僕は婚約者の真澄を倒壊した建物から見つけた出した。
右大腿部裂傷による出血と骨折が疑われた。
先祖代々医者の家系…。
2〜3年TV局でのんびりしたら、また医学の道に戻るつもりだった。身体が自然に動き出す。自分のYシャツを引き裂いて、裂傷部位の止血を試みた。出血は致命的なものではなかった。とう骨動脈に当てた僕の指先に正確で力強く脈打つことが確認出来た。
骨折の方も散らばった雑誌を掻き集め、添え木がわりにすると残ったYシャツでグルグルに巻いて固定処置を施した。それから、彼女を背負い、病院まで一時間かけて歩いた。
「真澄!安心しろ!病院に着いたぞ!ケガの方もちゃんと応急処置したし…」
僕は、彼女を看護婦らに託し、系列のTV局の応援に戻ろうとした。