「さてと、二人きりだと何して良いやら」
朝食を食べ終え、食器を片付けた後、真琴が切り出した。
「いつ頃二人は戻ってくるんですか?」
「夕方にならないと戻って来ないって。それまで俺たち留守番てワケなんだよ」
勝手にいなくなって勝手なことを押し付けないで欲しかったが、昨日、いきなり押しかけておいて今日、全員が観光に繰り出したら身勝手な家族に思われるに決まってる。
私だけでも残らないと。
「本当は自分も観光行きたかったって顔してる」
「そんなことないです」
「雪帆ちゃんて彼氏いるの?」
「…!いきなりなんですか?」
「まぁそう怒んないで」
「怒ってません」
人の心中を察したかと思いきやまるで関係無い話題(しかも答えたくない話題)を振る。
掴みどころの無い人だ。
「そっか…じゃあ今から俺と付き合ってよ」
「…?」
「買い物とか用事に付き合ってって意味」
私は一瞬ホッとしたが、楽しむかのように彼は微笑んだ。
「…じゃなかったら?」
「!?はっきり言って下さい!」
「ごめん。俺の彼女になってよ」
軽い。
なんて軽い言い方なんだろう。完全に女として舐められてる。
「本当になんなんですかいきなり。失礼過ぎますよ」
「言い方が悪かった。俺の彼女のフリをして欲しい」
事情は簡単だった。
高校の友達に、今度入学してくる女子生徒の中に彼女がいると言ってしまったらしい。
「何でそんなウソを!?」
「見ての通り田舎だろ?彼女がいる、彼氏がいる人は目立つからさ。人気者になりたくて」
「意味が分かりません。人気者になりたいって…」
「いっときだけでいいんだ。俺のことを知ってもらいたい人がいる」
なんだか話が見えてこない。
とにかく誰かの気を引きたがっているのは確かだ。