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月の吐息

るい  2008-05-04投稿
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連休。
世間ではここぞとばかりにワラワラと出掛けていく人々で渋滞を引き起こしている。

川原日向(ひゅうが)はぼんやり部屋のベットに寝転がり天井を見上げていた。

つまんねぇな〜…

月に一万渡される小遣いは、月初めというのに漫画やらゲームやらで使い果たしてしまっていた。男子校ということもあって、女子との出会いはなく…したがってデート代もいらないのだ。

それはいい。
だけど…金がないのは痛いよなぁ。

さっき友達からゲーセンへ誘われたが、用事があると断った。
中学二年生といっても男のプライドはある。
月初めに金がないのは悲しすぎる。

あ〜あ。
散歩にでも行ってきますか…。

金がないときの暇つぶしとなるとゲームか散歩くらいしかない。
今日の天気の良さからいえば散歩の方がいい気がした。

日向はひょいと起き上がると着の身着のまま、誰もいない家を後にした。
全く、夫婦水入らずで旅行とは…仲よきことは美しきかな、ってね。

ぎりぎりの生活費をぽんと置き、両親はさっさと箱根に行ってしまった。
薄情だよな〜。

日向は気に入りスポットへと足を運ぶ。
桜の時期はすぎたけど、川辺は初夏の香りで満たされていた。

「うわ〜綺麗だなぁ」

思わず感嘆の声。
芽吹き始めの柳は鮮やかな緑で…その下は一面の菜の花で埋めつくされている。
ちょうど、春と夏の混じった風景だった。

日向は若くて柔らかい芝に腰を降ろし、キラキラと反射する水面を眺めていた。

この清々しい気持ちを歌にしてみます。

日向は心で呟いて、思い切り大きな声で歌い始めた。
どうせ辺りには誰もいない。
「はぁーるのーうらぁらぁのぉーすうぅみい…」
「…るさい」

え?
なんか聞こえた?

「のーぼりぃーくだあぁりいぃのぉ〜」
「うるさい」


「………」

こんな昼間から、まさか幽霊じゃねぇよな。
でもだれもいないし…。
……ん??
なんかあの菜の花揺れてる……?

その時、一瞬の間を置いて巨大な影が菜の花から飛び出した。

「うわあっっっ!!ばっ化け…」

「やかましい人ですね」
腰を抜かしかけた日向に氷のような冷たい響きがふりかかり……目の前の人間が化け物ではないことを知った。


「びっ…びっくり…」

した、と続ける前に、日向は長身の男をまじまじと見つめ……見とれてしまった。



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