なんでしょうだとぉ?
あれほど厭味を言っておいて、しれっとしてやがる!
「おや、河原日向さんですね。私に何か?」
ゆったりと振り向いて、追い付こうと走ってきた勇人に軽く会釈。
「これはこれは。我が校切ってのストライカー…三ノ宮勇人さん、ですね…」
勇人は目の前の男をぎょっとして眺めていた。
なんだ??
タレント?モデルか?
なんつー迫力…。
しかし一応、免疫(?)のある日向はいち早く言葉を捕らえ…ショックを受けていた。
「我が校…つった?」
背筋をゾクリとさせる優雅な声が降りかかる。
「ええ。さあ無駄な時間は使いたくありません。行きましょう」
彼はそれだけいうと踵を返し、さっさといってしまう。
その後ろ姿を日向は呆然と見送った。
予想通り。
日向のいやぁな予感は的中した。
「これから四組の担任になることになった
月城零(つきしろれい)です。安岡先生が戻られても、担任は私のままですので、よろしく」
ざわつく教室。
担任が復活しても代わらないなんて聞いたことない…以前に恐らく、この強烈な存在感も関係しているに違いない。
日向はそっとクラスを見渡した。
高飛車な匂いを嗅ぎ付けてむっとしている奴、ア然として口を開けている奴…なかには形容しがたい目で、ぼうっとしている奴までいる。
月城は生徒のざわめきなど我かんせず、薄い笑いを浮かべ、ホームルームを進める。
クラス委員の高橋涼が手を挙げた。
「月城先生、僕たち自己紹介しなくてもいいんですか?」
月城は刺すような目で涼を見る。
「いいえ。必要ありませんよ、高橋涼さん。クラス委員でしたね…私が求めてから発言するようにして頂きたい」
涼ははたからみても気の毒なくらい真っ赤になり…頭を下げた。
「皆さんのことは把握しています。中学二年生という大事な時期を煩わさせるわけにはいかないですからね。ご安心下さい…さて、と」
月城は一旦教室からでると、両腕に大きな段ボールを抱えて来た。
「貴方にはこれから毎日ホームルームの時間を使って本を読んで頂きます…脳の活性化にも役立ちますから」
ええええっとさっきを上回る不満の叫びで教室が揺れた。
あいつ、なに考えてんだよ?
日向も紛れも無く不満だった。本だってぇ?
冗談!
しかし月城は眉一つ動かさず…むしろ嬉しそうに不満を聞き流したのだった…。
ドSだな。
勇人は呟く…。