「ぶえっくしっ!!さ、寒い〜っ!!」
まだ10月だというのに、まるで先月までが嘘のように冷え込む。
「やっべ。遅刻しちまう!だぁ〜!!そこのバス待てぇ!!」
俊こと黒崎俊は今にも発車しそうなバス目掛けて全力で走った。
そしてギリギリ滑り込みセーフ…
の、はずだった。予定では。
『あぁ、ちょっとちょっと。そこのお兄ーさん。』
淡い栗色の髪が視界に入る。
「あ?俺か!?…んだよ、今急いでんだ!邪魔すんな!」
生れつきの吊りぎみな目で相手をにらみつけた。
これでたいていの奴なら怖がって近寄らない…
はずだった。予定では。
『嫌だなぁ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。』
(怖い?どこがだよ…)
それどころか相手はビクリともせず、ニコニコしている。
『あのさ、俺道迷っちゃって。教えて欲しいんだけど…』
そう言う奴の手には今公開中の映画のチケット。
「映画館なら、そこの角曲がってすぐだ!じゃあな。」
『あ、ちょっと!』
俺は有無を言わさず、ちょうど来たバスに乗り込む。
ちらりと外を見ると寂しげに立ち尽くす奴の姿があった。
チクリ…何故だか胸が痛んだ。