『…くん。黒崎くんてば。』
(…へ?)
隣から呼ばれていることに気付き我に返る。
ふと左を向けば、悪戯っ子のように笑う隣人と目が合う。
そのままヒソヒソ声で河野は続けた。なにせ今は授業中である
『今朝は学校、ちゃんと間に合った?』
痛いところをつかれる。確かに自分は間に合ったが、
お陰で河野は遅刻したようなものだ。
「…ま、まぁ…なんとか。」
『クスッ、よかったね。でもさー、この通り俺は遅刻しちゃったけどネ。』
グサッ…
『道に迷う少年を一人置いて行っちゃうなんて酷いよなぁ。』
「そ、それはお前が!!」
思わず大声をあげてしまいハッとする。
周りの視線が集まるのがわかる…俊は真っ赤になってうつむく。
しばらくして負けじと俊は再び話しかけた。
「………あれは、お前が映画のチケットなんか持ってたからだろ?」
このままコイツに誤解されているのも、なんだか胸糞悪い。
『あぁ、アレかぁ。本当は学校サボって朝行こうかと思ってたんだけどね。
元々、学校は帰りのHRに間に合えば良いと思ってたから…でもやめたんだー。』
あまりのマイペースぶりに唖然とするが、それより気になる事を聞いてみた。
「なんで急にやめたんだ?」
そう言った途端、この妙な転校生はニッと笑い、こう続けた…
黒崎君に会ったから。
「はあっ!!??」
先程よりも大きい間抜けな声が教室に響く。
気付いた時には手遅れだった。
『黒崎!質問があるなら手を挙げて言え!先生ビックリするだろ!!』
現国の先生がそう言うと、教室中で笑いが起こった。
「す、すいません…」
俊は小さくなって河野を睨みつける。
そこには悪びれるどころか、涙を流してケタケタ笑う確信犯がいた。
(…変なやつ……)
俊は河野を横目で見つつ、深いため息をついた…―