小さい頃から、俺は夜が嫌いだった。
眠ってしまえば、またあの夢を見てしまうかもしれないから。
夢の中ではあれ程幸せなのに、
起きた後との温度差に苦しくなる。
そして、それは成長するにつれてひどくなっていく…
このままでは、自分が壊れてしまうのではないかと思う程に。
それにしても…と、俊は部屋のベッドに寝転がり、考えた。
いつからだったろう、あの夢を見るようになったのは。
考えた事なかったけど…ずいぶん前からだった気がする。
それこそ、夢の中に出て来る自分くらいの時から…
そこで、ふと思い出す。
小さい頃の、まさに九死に一生を得た、あの日の出来事。
あれは、俺が小2の時の冬。
あの日は、めずらしく朝からずいぶん雪が降っていた。
俺は家の前の細い道路で雪合戦をして遊んでいた。
そこに、一台の車が雪にスリップして俺に突っ込んできたのだ。
今でも、その事故の瞬間を思い出せる。
沢山の人が集まってくる…男の慌てた声、母親が駆け寄る音…
その中で聞こえた…誰かの泣き声…。
俺の意識はそこで途切れた。
幸い、俺は大した怪我もなく、すぐに退院できた。
でも違和感があった。何かが足りない。
足もある。腕もちゃんとついてる。なのに何か…
それよりずっと大切なものを俺は失った気がした。
…ハッと気付く。
そう、あの時からだ。俺があの夢をみるようになったのは。
あの事故があって以来、誰と会っても感じてしまう。
コイツじゃない…
なら、俺が求めているのは誰?
あの日、俺と雪合戦をしていたのは誰?
泣いていたのは…誰…?
どうしても思い出せない。
だから俺は、あの時からずっと、その『誰か』を捜していた。
夢でしか会えないアイツに、必死に伝え続けた。
「俺はここにいるから。」
だから、もう泣かないで…
『俺も…ずっと待ってる人がいるんだ。』
ふと、夕方河野がもらした言葉を思い出す。
あの時、アイツも泣きそうな顔をしていたっけ…
「…いてぇ…」
急に起こった、締め付けられるような痛みに胸をおさえる。
なんで今、河野の顔なんて出て来るんだよ…
なんで…こんなに苦しいんだよ…。
この痛みの意味を、
この時の俺は
まだ、知らなかった…。