「兄貴、本当にすみませんでした。みんなに迷惑かけて・・・明日から、また頑張ります。みんな僕らに、期待してくれてるわけですから」
雄次郎は、複雑な顔をしていた。
「・・・?あの、兄貴・・・?」
「いいか、ナオ。確かに、みんなの期待に応えるのは大事だ。・・・けど、今日みたいに、その途中で自分に何かあったら、結果は同じだぜ」
「兄貴・・・」
「自分の限界を知ることが、今は一番大事だ。そうじゃなきゃ、次の試合すら出れなくなるかもしれないんだぞ」
直哉は、無言で頷きながら聞いていた。
「俺達、野球部は、今はたった一人欠けてもダメなんだ。つまり、代わりをできるやつがいないくらい、みんな上達してきてる。俺もここの一員として、みんなに協力したいんだよ」
「何より、入部した頃からの、お前と俺の仲じゃないか。悩みやらグチやらあったら、俺にぶつけろ」
「ナオ公は、俺の【後輩】だから」
「兄貴・・・!」
直哉の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「僕、今まで・・・兄貴みたいな人に、会ったことなかったです!そんなに、後輩のこと、考えてくれてるなんて・・・」
直哉は声を詰まらせつつ、先を続けた。
「僕、今まで・・・周りからのことばっかり、気にしてて・・・兄貴・・・僕、絶対に・・・試合に、出ます。試合に出て・・・」
「必ず、勝ちます!」
雄次郎は突然、直哉を強く抱きしめた。