早瀬エリカは、じめついた電車内にため息をつきながらボックス席に座り込んだ。
疲れた…実行委員になんかなるんじゃなかった。
エリカの学校は六月の頭に体育祭がある。
エリカは友達に頼みこまれて委員になったのだ。毎日のように居残ってのミーティング。
ちらっと携帯をみると5時を過ぎている。
マイナーな路線で、かつ上り方面に乗っているため、いつも人はまばら…なのはいいが、車内の湿気が暑苦しい。
暑い…窓あけるのは面倒だし。ブレザー脱いじゃおう。
脱いだブレザーを横に置いた鞄に被せ、頬にかかる髪を払った。
細い、緩い癖のある髪が白いブラウスの肩にふわりと乗る。
もたれた窓にうつる、長い睫毛を見ているうちにどうしようもない眠気に襲われ…抵抗する気力もなく寝息をたてはじめた
気持ち良くまどろんでいたエリカに、ふっと違和感が湧く。
薄目を開けると、隣に人の気配を感じ…なおかつ鞄が自分の座席の前に移動していた。
なによ…勝手に人の荷物に触るなんて。
頭にもやのかかった状態で、エリカはまた船を漕ぎ出していた。
ちょっと考えてみれば、ガラガラの車内で隣に座ってくるなんて怪しいとしかいいようがないのだが…あまりに疲れていて疑問も浮かばなかった。
ふわふわと空を飛ぶような気持ち良さのなかで、不意に目が醒めた。
目線を落とし、ぎょっとする。
そこには、自分の胸をしっかりと包み込む男の手があったのだ。
「…っ…ちょ…」
信じられない思いで、声がでない。
薄いブラウスの上から、男の手の異様なくらいの熱が伝わる。
嫌だ…誰か…。
しかし、一生懸命首を伸ばしても誰も見ようとさえしない。
嘘、怖いっ…。
その間も、隣の男はエリカに吸い付くように密着し、ぴたりと寄り添ってくる。