記憶いっぱいに自動的に反芻される祝福の言葉。
「結婚おめでとう!!」
「旦那さんと仲良くね!」
「お幸せに!」
「羨ましいな〜!」
今、彼女の目の前には旦那はいない。
真っ暗な新居。
ここはリビングだ。
「…」
いつの間にか旦那の帰りを待っていたら寝てしまっていた。
いつからだろう。
この生活が普通になったのは。
彼女は二十歳で結婚した。
若気の至り。
そう言って周囲の人々は笑っていた。
しかし彼女はそんなことに気付いていなかった。
従順に彼女は待ち続けている。
彼がまた疲れたとボヤきながら施してくれるキスを。
彼女は自分の唇に指をそっと当てて、頬を染めた。
彼のために作った夕飯は後は温めるばかりだ。
彼女は幸せな気分に浸り、また眠りに落ちた。
「マユ……真由子。」
「…!お帰りなさい、ごめん眠っちゃってた。」
「いいよ。こっちこそ電話でも入れとけば良かったな。あ〜せっかくの綺麗な髪がぐしゃぐしゃだぞ。」
真由子は優しく手櫛を引いてくれた彼を嬉しそうに見つめた。
深夜二時でもなんでも帰って来てくれることが真由子には何よりも嬉しかった。
彼は真由子の頬をそっと撫でてそのまま口づけした。
「きっと明日は真由子の相手できるから。それまでの辛抱な。」
二人は新婚初夜から今まで、夜の関係は全くなかった。
真由子は彼の言葉を信じ続けていた。