梅雨の空…どんよりと曇っている。紫陽花の花が咲き、梔の花の淡い香りが漂う…。菜月は、横浜から浅草に日本舞踊のお稽古に来ていた。外は、どしゃ降りの大雨になっていた。「あっ!傘を忘れた!」どこか抜けている菜月だが「このまま駅まで走って行こう!」と駆け出したが、着物の裾や足袋がびちゃびちゃになっていた。「どうしょう?タクシーは料金が高いし、コンビニの傘も高いしなぁ…」と考えつつ近くで雨宿りをしていた。そこへ一人の青年が走って来た。菜月に軽い会釈し「いや、まいったなあー!傘忘れて…」菜月は「私と同じドジな人がいるのね。クスリと笑った」青年は、菜月に「どちらまで行かれるのですか?」と尋ね「横浜に帰る途中で、傘を持ってくるのを忘れてしまって」「それじゃ僕と同じですね。」と二人で照れ笑いをした。「ちょっとここで待っててくれる?」青年は、菜月に声をかけ、雨の中を駆け出した。しばらくすると彼は、一台のタクシーを止め、傘を差しながら戻って来た。片手には、もう一本の傘。「よかったら使って下さい。」と傘を差し出した。「僕も横浜に用事があるので、相乗りしませんか?」「でも…割勘なら…」と、二人で横浜に向かった。